・PSSDとは何か
・通常の抗うつ薬の副作用との違い
・主な症状と特徴
・現在考えられている原因仮説
・規制当局の見解
・現時点での治療と対応方法
この記事のポイント
✓ PSSDは抗うつ薬中止後も性機能障害が続く状態として報告されています
✓ 海外では規制当局による注意喚起が行われています
✓ 発症率や原因はまだ十分に分かっていません
✓ 現時点で確立された治療法はありません
✓ 自己判断で断薬せず主治医へ相談することが重要です
「抗うつ薬をやめたのに性欲が戻らない」
「勃起しづらい状態が続いている」
「以前のような快感を感じにくくなった」
このような悩みを抱えて検索している方もいるかもしれません。
近年、海外では「PSSD(Post-SSRI Sexual Dysfunction:SSRI中止後性機能障害)」という概念が注目されています。
PSSDとは、抗うつ薬の服用中または服用後に出現した性機能障害が、薬を中止した後も持続する状態を指します。
一方で、PSSDはまだ研究が進行中の領域です。
発症頻度や原因、治療法については分かっていない部分も多く残されています。
この記事では、現時点で分かっていることと、まだ分かっていないことを分けながら、薬剤師の視点でわかりやすく解説します。
PSSDとは?
PSSDとは、SSRIやSNRIなどの抗うつ薬を中止した後も、性機能障害が持続する状態を指します。
正式名称は、
Post-SSRI Sexual Dysfunction
です。
主に以下の薬剤で報告されています。
- パロキセチン(パキシル)
- セルトラリン(ジェイゾロフト)
- エスシタロプラム(レクサプロ)
- フルボキサミン(ルボックス、デプロメール)
- デュロキセチン(サインバルタ)
- ベンラファキシン
現時点では、PSSDはDSM-5-TRやICD-11における独立した診断名ではありません。
しかし、海外の規制当局では「中止後も持続する性機能障害」の存在が認識されるようになっています。
抗うつ薬による性機能障害は珍しくない
実は、抗うつ薬による性機能障害そのものは比較的よくみられる副作用です。
服薬中には、
- 性欲低下
- 勃起不全(ED)
- 射精障害
- オーガズム障害
- 腟潤滑低下
などが起こることがあります。
研究によって差はありますが、服用中の性機能障害は30〜80%程度に認められると報告されています。
多くの場合は、
- 減量
- 薬剤変更
- 中止
によって改善するとされています。
通常の副作用とPSSDの違い
| 項目 | 一般的な副作用 | PSSD |
|---|---|---|
| 発症時期 | 服薬中 | 中止後も持続 |
| 改善 | 中止後に改善することが多い | 長期間持続する場合がある |
| 主な症状 | 性欲低下、ED | 感覚鈍麻や快感消失を伴うことがある |
| 認識 | よく知られた副作用 | 研究が進行中の概念 |
PSSDでみられる主な症状
性欲低下
性的な興味や欲求が低下します。
「性欲そのものが消えたように感じる」
と表現する患者さんもいます。
勃起不全(ED)
性的刺激があっても勃起しにくい、維持しにくい状態です。
ただし、うつ病そのものでもEDが起こるため、慎重な評価が必要です。
生殖器感覚鈍麻(Genital Numbness)
海外の報告で特徴的とされる症状です。
- 触覚が弱くなった
- 温度を感じにくい
- 快感が弱くなった
などが報告されています。
快感消失・オーガズム障害
射精やオーガズムは起こるものの、
「以前のような快感がない」
と感じる症状です。
感情鈍麻(Emotional Blunting)
性的な症状だけでなく、
- 喜び
- 悲しみ
- 感動
などを感じにくくなることがあります。
Brain Fog(ブレインフォグ)
頭に霧がかかったような感覚を指します。
- 集中力低下
- 思考力低下
- 記憶力低下
として表現されることがあります。
薬剤師コメント
性機能障害は患者さんから非常に相談しづらい副作用です。
実際の服薬指導でも、
「本当は困っていたけれど言い出せなかった」
という声を聞くことがあります。
我慢せず相談していただくことが大切です。
なぜ抗うつ薬をやめても症状が続くのか?
現時点では原因は分かっていません。
現在考えられている主な仮説を紹介します。
セロトニン受容体変化仮説
SSRIは脳内のセロトニン濃度を増加させます。
その影響で受容体の感受性が長期間変化する可能性が考えられています。
ただし、現時点では仮説段階です。
ドパミン系変化仮説
ドパミンは、
- 性欲
- 快感
- 報酬
に関わる神経伝達物質です。
セロトニン系の変化がドパミン系へ影響する可能性が研究されています。
神経ステロイド仮説
近年注目されているのが神経ステロイドです。
特にアロプレグナノロンという物質との関連が研究されています。
末梢神経障害仮説
生殖器感覚鈍麻を説明する仮説として、末梢神経への影響が研究されています。
一部の研究では、小繊維神経障害との関連が示唆されています。
ただし、因果関係は証明されておらず、すべての患者さんに共通する所見ではありません。
その他の仮説
- 遺伝的素因
- エピジェネティック変化
- 腸内細菌叢の変化
なども研究されています。
現時点ではいずれも仮説段階です。
現在わかっていること
- PSSDを訴える患者さんが存在する
- 海外の規制当局は注意喚起を行っている
- 生殖器感覚鈍麻が特徴的症状として報告されている
まだわかっていないこと
- 正確な発症率
- 根本的な原因
- 標準治療
- 回復率や回復期間
PSSDの発症頻度はどれくらい?
実は、
正確な発症率は分かっていません。
理由として、
- 長期追跡研究が少ない
- うつ病そのものとの区別が難しい
- 報告されていない症例がある可能性
などが挙げられます。
一部の研究では0.4%程度との推計もありますが、研究方法によって結果が大きく異なるため、確定的な数字とは言えません。
どの薬で起こりやすい?
症例報告が比較的多い薬剤として、
- パロキセチン
- セルトラリン
- エスシタロプラム
などが挙げられます。
ただし、
「特定の薬だけが危険」
という結論は出ていません。
処方数や報告バイアスの影響も考えられています。
世界の規制当局はどう考えている?
2019年には欧州医薬品庁(EMA)が、
「中止後も持続する性機能障害」
について添付文書への記載を求めました。
その後、
- カナダ
- オーストラリア
- マレーシア
などでも注意喚起が行われています。
日本でも徐々に認知が広がっていますが、診断基準や治療指針はまだ十分に整備されていません。
PSSDは治るのか?
自然回復した症例も報告されています。
一方で、長期間症状が続く症例も報告されています。
現時点では、
- 回復率
- 回復までの期間
- 回復を予測する方法
はいずれも分かっていません。
そのため、
「必ず治る」
「必ず治らない」
どちらも言えないのが現状です。
現時点での治療法
現在、PSSDに対する標準治療は確立されていません。
症状に応じて、
- PDE5阻害薬
- 薬剤調整
- 心理的サポート
などが行われることがあります。
また、
- 神経ステロイド
- 神経再生治療
- 低出力衝撃波治療(Li-ESWT)
などの研究も進められています。
ただし、PSSDに対する有効性は現時点では十分に確認されていません。
医師・薬剤師に相談すべきタイミング
以下の場合は、主治医への相談をおすすめします。
- 服薬中に性機能障害が出現した
- 中止後も症状が続いている
- 日常生活に支障がある
特に重要なのは、
自己判断で急に薬をやめないこと
です。
急な中止は、
- 離脱症状
- 病気の再発
につながる可能性があります。
減薬は必ず主治医と相談しながら進めましょう。
薬剤師として伝えたいこと
抗うつ薬は、多くの患者さんの生活を改善してきた重要な治療薬です。
一方で、性機能障害は生活の質に大きく関わる副作用でもあります。
症状がある場合は、一人で悩まず、
- 主治医
- 薬剤師
へ相談してください。
薬剤変更や治療方針の見直しによって改善する場合もあります。
よくある質問
PSSDは治りますか?
自然回復した症例も報告されています。
ただし、正確な回復率や回復時期は分かっていません。
SSRIを飲んでいる全員に起こりますか?
いいえ。
服用中の性機能障害は比較的よくみられますが、中止後も症状が持続するPSSDは稀と考えられています。
ただし、正確な頻度は分かっていません。
パロキセチンは特別危険な薬ですか?
そのような結論は出ていません。
薬のメリットとリスクを主治医と一緒に考えることが重要です。
うつ病の症状との違いはありますか?
うつ病そのものでも、
- 性欲低下
- ED
- 快楽の低下
などが起こることがあります。
そのため、症状の原因を自己判断することは難しく、医師による評価が重要です。
泌尿器科と精神科のどちらを受診すればよいですか?
まずは抗うつ薬を処方した主治医への相談をおすすめします。
必要に応じて泌尿器科などと連携して診療が行われます。
まとめ
PSSDは、抗うつ薬中止後にも性機能障害が持続する可能性がある病態として、近年注目されています。
一方で、
- 発症頻度
- 原因
- 治療法
については、まだ多くの不明な点があります。
抗うつ薬は多くの患者さんの生活を改善してきた重要な治療薬です。
PSSDという概念があることと、抗うつ薬治療の価値は別の問題です。
必要以上に恐れるのではなく、気になる症状があれば主治医や薬剤師へ相談してください。
一人で悩まず、医療者と一緒に解決策を探していくことが大切です。
参考文献
- Healy D, et al. Diagnostic criteria for post-SSRI sexual dysfunction. International Journal of Risk & Safety in Medicine. 2022.
- Healy D, Mangin D. Post-SSRI sexual dysfunction: barriers to quantifying incidence and prevalence. Epidemiology and Psychiatric Sciences. 2024.
- European Medicines Agency (EMA). Safety review of SSRIs and persistent sexual dysfunction.
- Health Canada. Safety review regarding persistent sexual dysfunction after SSRIs/SNRIs.
- Therapeutic Goods Administration (TGA). Safety advisory regarding persistent sexual dysfunction following SSRI/SNRI treatment.

