自慰のときに強く握ると、パートナーとの性行為で射精しにくくなるのでしょうか。2026年9月に公表された調査では、対象となった男性の63.8%が「強グリップ」に分類されました。同月に発表された研究も、自慰と性交で感じる圧迫の差に注目しています。
ただし、「63.8%が射精障害になる」「強く握るだけで遅漏になる」わけではありません。調査と研究が実際に示したこと、示していないことを分けて、薬剤師の視点から整理します。
この記事の要点
- 63.8%はTENGAヘルスケアの調査で「強グリップ」に分類された割合であり、遅漏の有病率ではありません。
- 470人の後ろ向き研究では、自慰時の握る圧力と性交時に感じる圧迫の差が、自己推定の射精時間が3分を超えることと関連しました。
- 3分超は遅漏の診断基準ではありません。射精しにくさが続く場合は、薬・体調・心理面も含めて相談しましょう。
「63.8%が強グリップ」の調査は何を示す?
TENGAヘルスケアの発表によると、「日本性生活白書2024」は2024年5月に実施したインターネット調査で、結果は2026年9月10日に公開されました。男性の事前調査は18~69歳の10,779人、本調査は条件に合う2,200人です。女性の事前調査9,000人を合わせた19,779人は、調査全体の事前調査の人数です。
発表では、男性の63.8%が自慰時に過度に強く握って刺激する「強グリップ」に該当すると報告しています。さらに白書の該当章では、該当者の7割以上が自分の方法を「適切」「まぁ適切」と答えています。
この数字は調査の対象と分類方法に基づく結果です。全国の男性全員の健康状態や、射精障害の割合を示す数字として読まないようにしましょう。握る強さだけで病気を判断することもできません。
2026年の研究:握る強さより「刺激の差」に注目
2026年9月21日に『International Journal of Impotence Research』で公開されたZhangらの研究は、2020年1月~2022年3月に医療機関を受診した男性470人を後ろ向きに分析しました。自慰時の握る圧力と、本人が性交時に感じる腟内の圧迫を血圧計のカフで数値化し、その差を調べています。射精までの時間は本人による推定です。
圧力の差が10mmHg大きいごとに、自己推定した挿入から射精までの時間が3分を超えるオッズは、年齢とBMIを調整した解析で1.27倍でした。一方、自慰時の握る圧力だけでは、比較した群の差は統計学的に明確ではありませんでした。
ここでの「3分超」は、遅漏と診断された人数ではありません。研究は一施設を受診した人の後ろ向き分析で、性交時の圧迫は本人の知覚、射精時間も自己推定です。自慰と性交の刺激差が射精時間に関係する可能性はありますが、刺激差が射精障害を引き起こすと証明したものではありません。
「デスグリップ症候群」は正式な病名?
「デスグリップ症候群」は、強い刺激を伴う自慰と感覚・オーガズムの悩みを結び付けて使われる俗称です。国際性医学会(ISSM)の解説でも、医学界で正式に認められた診断ではなく、研究が限られていると説明しています。
強く握った経験があるだけで「症候群」や永久的な感覚障害と決めつける必要はありません。痛みや感覚の変化、実際の射精のしにくさが続いているかを確認することが大切です。
自慰では射精できるのに性交では難しい理由
自慰では力や速さ、刺激する位置を自分で調整できます。性交時に同じ刺激を得られないことが、射精のしにくさに関わる可能性があります。ただし原因は一つではありません。緊張や妊活中のプレッシャー、体調、糖尿病や神経の問題、飲酒、薬の影響なども考慮します。
薬剤師が確認したい服薬歴
SSRIなどの抗うつ薬、一部の抗精神病薬や降圧薬は射精やオーガズムに影響する場合があります。また、前立腺肥大症の治療薬では射精時に精液が出にくくなるなど、異なるタイプの症状も起こり得ます。Mayo Clinicの解説も、薬や健康状態、心理的な要因を挙げています。
症状が薬の開始・増量後に始まったなら、薬の名前と時期をメモして処方医や薬剤師に相談してください。自己判断で抗うつ薬などを中止・減量しないでください。薬と射精の違いについては精液が出ない原因と逆行性射精の記事も参考になります。
レクサプロなどの抗うつ薬の服用後に射精しにくくなった場合は、抗うつ薬による性欲低下・ED・射精障害で症状の違いと相談方法を確認できます。
EDとの違いと、気になるときの対処
EDは主に勃起を得る・保つことの問題で、遅漏は射精に時間がかかる・射精できないことの問題です。重なることもありますが、勃起しているのに射精できない場合、ED治療薬だけで解決するとは限りません。ED治療薬を遅漏の治療として自己判断で使わないでください。勃起についての悩みがある方は早漏とEDの関係の記事もご覧ください。
強い圧迫や痛みを伴う刺激は避け、射精を急がず、パートナーと心地よい刺激や悩みを話し合うことから始められます。特定の握り方や器具に変えれば必ず治るという根拠はありません。男性向けセルフケア用品も、遅漏の治療効果が確立した方法として扱わないことが大切です。
泌尿器科への相談を考えたい場合
- 以前できていた射精が急に難しくなった
- 自慰でも性交でも射精しにくい、または感覚低下や痛みが続く
- 妊活やパートナーとの関係に影響している
- 服薬開始・増量と症状の時期が重なる
「何分以上なら受診」という数字だけで決める必要はありません。本人やパートナーが困っているか、以前から変化があるかを目安に、泌尿器科などで相談してください。
よくある質問
毎日自慰をすると遅漏になりますか?
頻度だけで遅漏になるとはいえません。刺激の方法、薬、体調、心理面なども関係します。困りごとがなければ回数だけで不安になる必要はありません。
握る強さは何kgが正解ですか?
白書には監修医による強さの目安がありますが、全員に当てはまる診断基準や予防効果が実証された境界値ではありません。数値で自己診断するより、痛み・過度の圧迫・射精の困りごとの有無を見ましょう。
早漏なら強く握って練習すべきですか?
強く握ることは確立した早漏治療ではありません。早漏が気になる方は早漏の定義と相談の目安を確認してください。
まとめ
「強グリップ」63.8%は調査上の割合です。2026年の研究では、自慰時と性交時の刺激の差が自己推定の射精時間と関連しましたが、強く握れば遅漏になるという因果関係は示されていません。射精しにくさが続くときは、自慰の方法だけで決めつけず、服薬歴や体調も含めて医療者に相談しましょう。
参考資料
- TENGAヘルスケア.日本性生活白書2024の公開発表(2026年9月10日)
- TENGA性生活白書:マスターベーションと性機能
- Zhang H, et al. International Journal of Impotence Research(2026年9月21日公開。本文中の研究結果は公開抄録に基づく)
- International Society for Sexual Medicine:Death Grip Syndromeの解説(2025年4月9日)
- Mayo Clinic:Delayed ejaculation – Symptoms and causes
※本記事は一般的な医学情報です。個別の診断・治療に代わるものではありません。症状が続く場合は医療機関へご相談ください。

