「射精した感覚はあるのに、精液が出てこない」
「オナニーをしても、以前より精液の量が少なくなった」
「前立腺の薬を飲み始めてから、射精の様子が変わった気がする……」
このような変化があると、男性ホルモンが減ったのではないか、精子が作られなくなったのではないかと不安になるかもしれません。
射精した感覚があるのに精液がほとんど出ない状態は、ドライオーガズムと呼ばれることがあります。
原因には、精液が膀胱に流れる逆行性射精や、精液が尿道へ送り出されにくくなる排出障害などがあります。タムスロシンやシロドシンなどの薬による射精障害を、見た目だけで逆行性射精と決めつけることはできません。
ただし、精液が出ないからといって、必ずしも精子が作られていないわけではありません。
この記事では、調剤薬局勤務10年以上、泌尿器科門前薬局の経験もある薬剤師が、精液が出ない原因、逆行性射精の仕組み、薬の副作用、男性不妊との関係を医学的な資料に基づいて解説します。
結論:射精しても精液が出ない原因は、逆行性射精だけではない
最初に重要なポイントを整理します。
- 射精した感覚があるのに精液が出ない場合、逆行性射精や精液の排出障害などが考えられます。
- タムスロシンやシロドシンなどの前立腺肥大症治療薬が関係する場合があります。
- 精液が出ないことと、勃起障害・精子が作られていないことは別の問題です。
- 妊娠を希望している場合や、症状が続く場合は泌尿器科で相談してください。
特に注意したいのは、薬による射精障害です。
前立腺肥大症の治療薬の一部では、精液がほとんど出なくなる副作用が知られています。
ただし、症状が気になっても、自己判断で薬を中止しないでください。
まずは、正常な射精の仕組みから確認しましょう。
正常な射精では、体の中で何が起こっている?
射精は、精液が単純に押し出されるだけの現象ではありません。
精管、精嚢、前立腺、尿道、膀胱頸部などが協調して働くことで起こります。
正常な射精の流れを整理すると、次のようになります。
- 精巣で作られた精子が精管を通って運ばれる
- 精嚢や前立腺からの分泌液が加わる
- 精液が尿道の奥へ送り出される
- 膀胱頸部が閉じ、精液が膀胱へ逆流するのを防ぐ
- 尿道周囲の筋肉が収縮して精液が体外へ排出される
この一連の働きには、自律神経や骨盤底筋などが関わっています。
どこかの働きが妨げられると、射精した感覚があっても精液が出にくくなる場合があります。
逆行性射精とは?精液が膀胱に逆流する状態
逆行性射精とは、射精時に精液が陰茎の先から排出されず、膀胱側へ流れてしまう状態です。
通常、射精時には膀胱の出口にある膀胱頸部が収縮します。
これは精液が膀胱へ逆流するのを防ぐためです。
しかし、膀胱頸部が正常に閉じない場合、精液が膀胱へ流れ込むことがあります。
これが逆行性射精です。
逆行性射精ではどんな症状が起こる?
代表的な症状には、次のようなものがあります。
- 射精した感覚はあるのに精液が出ない
- 精液の量が以前より少ない
- 射精後の尿が白く濁ることがある
- 妊娠を希望しているが、なかなか妊娠に至らない
逆行性射精は、通常、精液が膀胱に入ること自体によって重大な健康被害が生じる状態ではありません。
膀胱に入った精液は、その後の排尿によって体外へ排出されます。
ただし、通常の射精で体外に排出される精液が少なくなるため、男性不妊の原因になることがあります。
射精後の尿が白く濁るのは逆行性射精?
逆行性射精では、精液が膀胱に流れ込むことで、射精後の尿が白く濁る場合があります。
ただし、尿の濁りだけで逆行性射精と診断することはできません。
尿路感染症など、ほかの原因でも尿が濁ることがあります。
排尿時痛、発熱、頻尿などを伴う場合には、泌尿器科で相談してください。
精液が出ない原因は逆行性射精だけではない
ここが、今回の記事で特に知っていただきたいポイントです。
「射精したのに精液が出ない」という症状は、すべて逆行性射精で説明できるわけではありません。
精液が体外へ出ない状態には、異なる仕組みが存在します。
| 状態 | 体内で起こっていること | 主な原因の例 |
|---|---|---|
| 逆行性射精 | 精液が膀胱へ流れる | 膀胱頸部の機能障害、手術後、神経障害など |
| 精液の排出障害 | 精液が尿道へ十分に送り出されない | 一部のα1遮断薬など |
| 無射精 | 精液が尿道にも膀胱にも排出されない | 神経障害、薬剤、手術後など |
| 精液量の減少 | 精液が出るものの量が少ない | 短時間での繰り返しの射精、分泌機能の変化、薬剤など |
これらは治療や対応が異なるため、区別する必要があります。
前立腺肥大症の薬で精液が出なくなることはある?
あります。
前立腺肥大症の治療に使用されるα1遮断薬の一部では、射精障害が知られています。
α1遮断薬は、前立腺や尿道周囲の筋肉を緩めることで、尿を出しやすくする薬です。
一方、精液を送り出す仕組みにもα1受容体が関係しているため、薬によって射精の状態が変化する場合があります。
シロドシン(ユリーフ)
シロドシンは、前立腺肥大症に伴う排尿障害の治療薬です。
α1A受容体への選択性が高く、排尿症状を改善する一方で、射精障害が比較的多く報告されています。
添付文書でも、射精障害が副作用として記載されています。
薬を飲み始めてから精液の量が減った、射精感はあるのに精液が出なくなったという場合は、薬との関係が考えられます。
タムスロシン(ハルナール)
タムスロシンも、前立腺肥大症に伴う排尿障害の治療に使われるα1遮断薬です。
タムスロシンでも、精液量の減少や射精障害が報告されています。
特に注目したいのが、2006年に発表された日本の研究です。
健康な男性17人を対象にタムスロシンなどを投与し、精液量や射精後の尿を調べました。
その結果、タムスロシン投与時には精液量が減少しましたが、射精後の尿中には精子が確認されませんでした。
この結果から、研究者らは精液が膀胱に逆流したのではなく、精嚢などの収縮が弱くなり、精液が尿道に送り出されにくくなった可能性を示しています。
つまり、薬の影響で精液が出なくなった場合でも、すべてが逆行性射精とは限らないのです。
ナフトピジル(フリバス)
ナフトピジルも、前立腺肥大症の治療に使用されるα1遮断薬です。
タムスロシンやシロドシンと比較すると、射精障害の起こりやすさには違いがあります。
ただし、ナフトピジルであれば射精障害が絶対に起こらないというわけではありません。
排尿症状の程度や血圧、併用薬なども含めて、医師が薬を選択します。
α1遮断薬の射精障害を比較
| 一般名 | 代表的な商品名 | 射精障害について |
|---|---|---|
| シロドシン | ユリーフ | 比較的多く報告されている |
| タムスロシン | ハルナール | 報告されている |
| ナフトピジル | フリバス | 報告されているが、薬剤間で頻度に違いがある |
EAUの男性下部尿路症状ガイドラインでも、射精障害はα1遮断薬の副作用として認識されており、特にタムスロシンやシロドシンとの関連が示されています。
ただし、この表は薬の優劣を示すものではありません。
排尿障害の改善と副作用のバランスを考え、処方医と相談することが大切です。
糖尿病でも逆行性射精が起こる?
糖尿病も、逆行性射精の原因になることがあります。
長期間の糖尿病などによって自律神経に障害が起こると、射精時に膀胱頸部を閉じる働きが弱くなる場合があります。
その結果、精液が膀胱側へ流れてしまう可能性があります。
ただし、糖尿病がある男性すべてに逆行性射精が起こるわけではありません。
糖尿病の治療中に射精の状態が変わった場合は、主治医や泌尿器科で相談してください。
前立腺の手術後に精液が出なくなることもある
前立腺や膀胱頸部などの手術後に、射精の状態が変化する場合があります。
例えば、前立腺肥大症に対する一部の手術では、膀胱頸部の働きが変化し、逆行性射精が起こることがあります。
また、前立腺がんに対する前立腺全摘除術では、前立腺や精嚢が取り除かれるため、術後に通常の精液が排出されなくなります。
これは逆行性射精とは異なる仕組みです。
手術後に精液が出なくなった場合は、どのような手術を受けたかによって原因が変わります。
精液が出ないと男性不妊になる?
精液が出ない状態が続く場合、妊娠に影響する可能性があります。
ただし、精液が出ないことと、精子が作られていないことは同じではありません。
例えば、逆行性射精では精子が作られていても、精液が膀胱側に流れてしまうため、通常の射精で体外へ排出される精子が少なくなります。
このため、妊娠を希望している場合は原因を調べることが大切です。
逆行性射精でも妊娠できる?
逆行性射精がある場合でも、妊娠につながる可能性はあります。
原因や状態によっては、薬物療法が検討されることがあります。
また、射精後の尿から精子を回収し、生殖補助医療に利用する方法もあります。
ただし、どの方法が適切かは、原因、精子の状態、パートナーの年齢や妊娠に関する状況などによって異なります。
妊娠を希望している場合は、男性不妊を扱う泌尿器科や生殖医療専門の医療機関に相談してください。
精液が出ない場合、病院ではどんな検査をする?
泌尿器科では、症状や病歴、服用薬などを確認し、必要に応じて検査を行います。
① 問診
最初に、次のような情報を確認します。
- いつから精液が出なくなったか
- 射精した感覚はあるか
- 精液の量が減ったのか、まったく出ないのか
- 射精後に尿が濁るか
- 前立腺や膀胱の手術歴
- 糖尿病などの持病
- 現在服用している薬
- 妊娠を希望しているか
特に、薬の開始時期と症状が出始めた時期は重要な情報です。
② 射精後の尿検査
逆行性射精が疑われる場合、精液量や服薬歴・手術歴などを確認し、必要に応じて射精後の尿に精子が含まれているか調べます。
射精後の尿に多くの精子が確認され、症状や病歴とも一致する場合には、逆行性射精を考える材料になります。
ただし、少量の精子が尿に混じることもあるため、尿中に精子が見つかっただけでは逆行性射精と診断できません。精液検査や病歴などと合わせて判断します。
③ 精液検査
精液がある程度排出される場合や、妊娠を希望している場合には、精液検査が検討されます。
精液検査では、精液量、精子濃度、運動率などを調べます。
検査前には禁欲期間などの指示があるため、医療機関の案内に従ってください。
④ 必要に応じた追加検査
原因に応じて、血液検査や画像検査などが行われることもあります。
すべての男性に同じ検査が必要というわけではありません。
射精しても精液が出ないときの受診目安
| 状況 | 対応の目安 |
|---|---|
| 短時間に何度も射精し、後半で精液が少なくなった | 一時的な変化の可能性があります。回復しない場合は相談してください。 |
| 薬を飲み始めてから精液が出なくなった | 処方医・薬剤師に相談してください。 |
| 毎回、精液がほとんど出ない | 泌尿器科で原因を確認してください。 |
| 妊娠を希望している | 早めに男性不妊を扱う医療機関へ相談してください。 |
| 射精時痛・血尿・発熱などがある | 早めに泌尿器科を受診してください。 |
| 尿が出ない、強い痛みや高熱がある | 速やかに医療機関を受診してください。 |
薬剤師コメント:精液が出なくなっても、自己判断で薬を中止しない
前立腺肥大症の治療薬を服用している方で、射精の変化が気になる場合、まず確認したいのは薬の名前と服用開始時期です。
シロドシンやタムスロシンなどの薬では、射精障害が起こる場合があります。
しかし、薬を中止すると、もともとの排尿障害が再び悪化する可能性があります。
薬の影響が疑われる場合には、次のような情報を整理して相談してください。
- 現在服用している薬の名前
- 服用を開始した時期
- 精液が出なくなった時期
- 排尿症状が改善しているか
- 射精障害によって生活に支障があるか
- 今後、妊娠を希望しているか
薬の変更や用量の調整が必要かどうかは、排尿症状や副作用、ほかの持病を含めて医師が判断します。
性機能に関する悩みも、薬剤師に相談してよい内容です。
相談しにくい場合は、お薬手帳を提示しながら「薬を飲み始めてから精液の量が減った気がする」と伝えるだけでも十分です。
よくある質問
Q. 射精しても精液が出ないのは男性ホルモンが少ないからですか?
男性ホルモンの低下が精液量に影響する場合はありますが、精液が出ない原因はそれだけではありません。
薬の影響、逆行性射精、手術後の変化など、ほかの原因も考えられます。
Q. 逆行性射精は自然に治りますか?
原因によって異なります。
薬が関係している場合には、処方内容の見直しによって改善する可能性があります。
一方、神経障害や手術後の変化などが原因の場合には、自然に改善しないこともあります。
Q. 精液が出なくてもオーガズムを感じることはありますか?
あります。
オーガズムと精液の排出は、密接に関係していますが、同じ現象ではありません。
そのため、性的な絶頂感があっても精液がほとんど出ない場合があります。
Q. タムスロシンを飲んでから精液が減りました。薬のせいですか?
タムスロシンでは、射精障害が報告されています。
服用開始後に症状が現れた場合には、薬との関係が考えられます。
ただし、ほかの原因もあるため、自己判断で中止せず処方医・薬剤師に相談してください。
Q. シロドシンを飲むと必ず射精障害が起こりますか?
必ず起こるわけではありません。
シロドシンでは射精障害が比較的多く報告されていますが、すべての人に発生する副作用ではありません。
Q. 精液が出なくなったら精子も作られていないのですか?
必ずしもそうではありません。
精子が作られていても、精液が膀胱へ逆流したり、尿道へ送り出されなかったりする場合があります。
精子の状態は、必要に応じて医療機関で検査して確認します。
Q. 精液が出ない場合でもED治療薬は効果がありますか?
ED治療薬は、主に勃起機能の改善を目的とする薬です。
逆行性射精や、薬剤によって精液が送り出されなくなる状態を直接治療する薬ではありません。
勃起障害と射精障害が同時にある場合は、それぞれの原因について医師に相談してください。
まとめ:精液が出ない場合は、薬の影響や逆行性射精を確認しよう
射精した感覚があるのに精液が出ない場合、逆行性射精や精液の排出障害など、複数の原因が考えられます。
特に、シロドシンやタムスロシンなどの前立腺肥大症治療薬では、射精障害が報告されています。
ただし、薬を飲んでいるからといって、必ず薬が原因とは限りません。
精液が出ない状態が続く場合や、妊娠を希望している場合には、泌尿器科で相談してください。
精液が出ないことは、必ずしも精子が作られていないことを意味しません。原因を区別し、必要な対応を考えることが大切です。
関連記事
射精時や射精後に痛みがある場合は、射精すると痛い原因と受診目安も参考にしてください。精液が出ない原因とは別に評価が必要な場合があります。
精液の仕組みや自慰行為による変化については、次の記事も参考にしてください。
参考文献
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Disorders of Ejaculation - EAU Guidelines on Sexual and Reproductive Health - UrowebAn overview of ejaculatory disorders, covering premature, delayed, retrograde and painful ejaculation, anejaculation, an... - European Association of Urology. EAU Guidelines on the Management of Non-neurogenic Male LUTS: Disease Management.
Disease Management - EAU Guidelines on the Management of Non-neurogenic Male LUTS - UrowebExplore evidence-based treatment strategies for male LUTS, from lifestyle interventions and medication to surgical manag... - Hisasue S, et al. Ejaculatory disorder caused by alpha-1 adrenoceptor antagonists is not retrograde ejaculation but a loss of seminal emission. International Journal of Urology. 2006;13(10):1311-1316.
pubmed.ncbi.nlm.nih.gov - 東邦大学医療センター大森病院 リプロダクションセンター.逆行性射精.
東邦大学医療センター大森病院 リプロダクションセンター(泌尿器科)東邦大学医療センター大森病院リプロダクションセンター(泌尿器科)のサイトです。当科の診療内容は、男性不妊症と性機能障害が中心となっています。 - Mayo Clinic. Retrograde ejaculation: Symptoms and causes.
Access Denied - World Health Organization. WHO laboratory manual for the examination and processing of human semen. Sixth edition. 2021.
WHO laboratory manual for the examination and processing of human semen, 6th edThis manual provides updated, standardized, evidence-based procedures and recommendations for laboratory managers, scien... - 医薬品医療機器総合機構.シロドシン製剤 添付文書・医薬品情報.
PMDA 医療用医薬品情報 医療関係者向け独立行政法人 医薬品医療機器総合機構:医薬品副作用被害救済や稀少病認定薬の研究振興調査などの業務案内
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